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​『秋水』

時期:2年前の秋。 視点:常葉

二日後の試合会場となる城内南広場へとやってこれば何人かの武芸者らしき人が居て、実際に試合を行う区画が線引かれていたりお偉方の観覧席のような場所があったりと、当日の様子が想像できる様子になっていた。

その中でも観覧席付近には小さなひとだかりがあり、興味本位で自分もそちらへと足を向けた。

 

『あれが例の……なんだっけ、ふつ……?』

『布都御魂剣だろ。あんなものが褒美って……、売ったらいくらになるんだ?』

『俺の眼には普通の刀に見えるがねえ……』

 

近付いてみれば、どうやら今回の試合で褒美となるものが置かれているようで、人々はそれを一目見ようと集まっていたようだ。話を聞くによほどの名刀らしいとあっては好奇心が擽られる。

 

「あれが今回の……、あら、刀なのですね。」

暫しの間人で作られた垣根が入れ替わるのを待って、丁度最前へ出られる頃合いを見てば進み出たなら、飾り台には特徴的な内反り片刃の鉄刀が鎮座していた

先程聞こえた小難しい名前に聞き覚えは無かったが、見れば分かる。この刀は“特別”な一振りだ。

それを見ているだけで自身の内側から力が湧くような気配がして、剣士であればあれを振るわずにはいられまいと、そんな風に欲を掻き立てられるような衝動にすら苛まれ、無意識に片手をそちらへ伸ばし————……

 

​・

「いけませんよ。」

咎めるように聞こえた声にはっとして腕を下ろせば、反射的に後方を振り返って。

うして、気が付いた。

「ワタクシ……?」

 

いつの間にか空は夕日に染まる茜色になっていて、周囲に居た筈の人だかりもなくなっていた。体感していた時間はごくわずかであった筈なのに、一体どれほどの時間あの刀を眺めていたのだろうかと首を傾げていれば、先程の声の人物だろう男と、もう一人がこちらに向かって歩いて来た。

視線だけをこちらへ寄こした二人は直ぐに刀の方へ向き、何やら言葉を交わして。

 

「九条殿、こちらが件の布都御魂剣になります。」

”九条”と言われた月白と藍色が半分ずつの特徴的な髪をした男は、刀へ近づけは息を呑んだ。

「……これが複製ですか?まさか……、これほどの力を秘めているのに模造品とは、刀鍛冶の腕が人智を超える程によいのか、ともすれば————。」

男はこちらを見、口を開く。

 

「お嬢さん、少なくともあなたの眼にこの刀は単なる鉄の塊として映っていないでしょう。」

突然現れた人物がさも深刻そうな顔をしてそういうものだから、話の流れは全く読めないものの、流されるように頷いて。

「……ええ。その通り、ワタクシにはこれが一等特別な刀に思えます。」

その言葉を聞けば、男は溜息を溢して片手で額を抑えたのだった。

 

「矢張り……。これはどう見たって本物ですよ。どうするのですか、こんなものを無防備に大衆へ晒して………………。」

「ええっ、そんなまさか!……えっ、ええっ。」

再び溜息を吐いた九条と呼ばれた男と、先ほどまでの落ち着いた表情から一転挙動不審となった人物を見て、ますます状況が分からなくなったのだった。

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