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​『海石榴』

時期:3年前の冬。 視点:壬生

ところ変わって京の都、朧月邸。

小ぶりな火鉢を抱え込み、はらはらと降り積もる白雪を眺めていれば、控えめに私室の扉を叩く音が聞こえた。

 

「九条です。葉室さんとあなたに少し話があるので、向こうのお座敷に来ていただいてよいですか」

「ああ、すぐ向かう」

 

座敷へと向かってみれば既に万羽と尊が待っていて、三人で会話をするには些か広すぎる部屋のどこに腰を据えようかと視線を泳がせたなら、“そこに座っておけ”と言いたげな万羽の視線がこちらを向いた。

 

「待たせたか」

一先ずその場に腰を下ろし、二人の方を見る。

 

「尊様、して話しと言うのは一体」

「ええ――、と言うのも、つい先日幕府側から“現状を報告するため江戸に上るように”との文を受けまして。一度東下<とうか>しようと思うのです。」

「とうか……?」

「“江戸に向かう”ことです。」

尊がそう言うや否、万羽は血相を変えた様子で口を開いた。

「な——、この厳冬期に東下など一体何をお考えか!」

確かに、京の都から江戸までは随分と遠いだろうし、雪の降るこの季節には不向きだろうなと思いながら続く尊の言葉を待てば、苦笑を浮かべた尊が口を開く。

「親切とは言い難いですが、仕方ありません。”我々は協力的である”と見せないといけませんからね」

「……それは、……その通りでございますが」

「それで話の本題です。私は支度が済み次第ここを発ちますから、そうですね……、問題なく済めばひと月ほどでしょうか。その間、あなた達二人にここを任せたいと思いまして。お願いできますか」

「……、……承知しました。」

なるほど、と話を理解する。

「分かった。……とりあえず俺は、これまで通り困りごとの解決に手を貸せばいいんだよな?」

「ええ、その通りです」

 

自分がここに来てから幾くばかの時間が流れたが、新たな仲間<神薙>は見つかっていない。しかし、新たな仲間が見つかることがなくとも問題はひっきりなしであり、せめて山城の中だけでもと報告のあった問題への対処に追われているのが現状だ。

少し不安を覚えはするが、万羽も居るしきっと大丈夫だろう。

「では、暫くはお二人に任せましたからね」

 

尊はそう言って穏やかに笑っていた。

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