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朧ゝ夜行 -長夜綴り-
『曙』
時期:3年前の春。 視点:??
すっかり日も落ち、山奥の池塘を照らすのは薄ぼんやりとした月明りだけ。透き通った水面は鏡のように周囲の風景を映しており、幻想的な空間を作り出していた。
鏡池の畔には、水飲みにやって来たのだろう小動物や夜行性の野鳥らが羽を休めている姿も見えることだろう。
そんな穏やかな空間に瞼を伏せていれば、何処かから、ぱしゃぱしゃと水が跳ねる音が聞こえた。
『なんだか下の村が騒がしかったね!』
『よそ者だって。みやこ?から来たんだってさ』
『みやこ?それってどこだろう!』
『さあ、知らない』
音の方を見やれば、二匹の子狐が楽し気にそんなことを言っていて。
『そのよそ者とやら、どうやら”イクルミサマ”——お前さんを探してるようだったよ』
ぱさりと羽音を鳴らした梟は羽繕いをしながらそう言っていたが、若草の隙間を駆ける野ネズミを見つければそちらの方へと飛び去っていった。

「…………、」
薄雲の隙間から覗く皿のような月を見上げれば、少しだけ不思議な心地がした。
夢が醒めるような、はたまた夢心地なような。
朧げに——、自分はこんな夜を知っているような気がした。
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