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​幕間

時期:3年前の初夏。 視点:--

数日後の晩。

灯篭のぼんやりとした明かりが照らすのは、二人の男——九条尊と、葉室万羽であった。

 

「それで、あれから何か進展はありましたか」

​「……はい。壬生ですが――、彼奴は幼い頃に捨てられていたようでして。肉親が今何処で過ごしているのかまで遡ることは困難であると……」

「そうでしたか……。では、死亡時の手当てをどうするのかは確認しておかねばなりませんね」

非情かもしれないが、こういった類の話を詰めておくことも大切だろう。

尤も、彼<壬生>のように幼い精神状態の者がどの程度当事者意識を抱いているのかは分からないが。

「それと、”力”の方はどうですか?」

「ええ、まさしく“千里眼”と言えるような力です。現状判明しているところで言えば、触れたものの過去や未来さえ見通すことができるようですね」

「そうですか。……ふむ、私も実際目にしてはいますが実に便利なものですね」

 

壬生が合流してからすぐのこと。まずはその身辺調査であったり、能力を正しく理解するための検証等を葉室に行わせていたのだ。

 

「日常生活の方はどうですか。何か不便な様子はありますか?」

「どう……と言われますと、……物事を吸収をする力は高いようですが、なにせ目が離せませんね」

 

眉間に皺を寄せつつも、どこか諦めた様子の葉室を見れば“なんだ、矢張り上手くやれているようだ”と笑みも零れる。

 

「ふふ……、まるで幼子の子守りに追われる父のようですね?」

「……お辞めください」

弱ったような様子の彼にはなおの事愉快な気持ちにもなり、ひとしきり笑えば佇まいを正し。

​​

「――して、千里眼。きっと、壬生さん——彼に視れぬものはないのでしょう。望んだものを視ることができる……とは少し違いますが、この後の神薙探しは楽になるかもしれません」

「……であればよいですが」

「しかし、不思議な話ですね。選択の良し悪し、続く未来の是非……。それら全てを知ることができる彼がああいった無垢な人柄というのは。万羽よ、この世は実に上手く作らていると思いませんか」

「……つまり何が仰りたいのですか」

意味のない話でも、落としどころのない話でも、こうした遠回りな話であっても嫌な顔をしない彼は、やはり”良い人”と言えるだろう。

ゆるりと笑えば、言葉を続けた。

「私だったら、きっと“わるいこと”に使います。……お前なら、どう使いますか?」

​「――、」

幕間 終​​

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