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『海石榴』

時期:3年前の冬。 視点:椿

「姐さん、今日もとっても素敵でした!」

「……ぬしも、上手に弾けておったぞ。」

仕事が済めば、ふたりで肩を並べて置屋までの帰路を歩く。

辺り一変冬景色だと言うのに、道すがら並んでいた灯篭の光に照らされた通りはわずかに暖かみさえあって、どうにも不思議なものである。

 

「そうですか?よかったあ。…………あれ?」

ふと足を止めた彼女が、紺色の空を見上げる。

「どうかしたのかえ」

つられるように天上を見上げるも、この瞳に映ったものは代わり映えのしない冬の夜空だ。はて、と思い再び彼女へと視線を戻せば、先程とは打って変わって神妙な顔をしていた。

「……雨が降って来たのかと思ったのですけど、……気のせいかな。」

「雨……?」

「水の音が聞こえた気がして——」

そう言いながら小首を傾げた彼女は、大門の方へと視線を向けた。

 

「――ううん。やっぱり、気のせいでした。」

「……今夜は特に冷えたからの、疲れとるのかもしれん。」

ほら、早く戻ろう。と、そう言い聞かせるようにして彼女のほつれた前髪を撫でつけてやれば、触れた花飾りがしゃらりと鳴った。

 

全てが普段通りのことなのに、何故だかうすら寒い空気を感じるのは女の勘か。

​​『海石榴』-中編 終

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