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幕間

時期:3年前の春。 視点:--

ざわざわと木々の擦れる音が響き、重なり合った枝葉の隙間からは柔らかな日差しが零れ落ちる。そんな、のどかな昼下がり。

さくさくと小気味良い音を鳴らしながら土を踏みしめ山道を歩くのは、今しがた町で商いを終えたばかりの棒手振りの男らと、一人の旅人だった。

 

「にしてもあんちゃん、わざわざ京からこんな辺鄙な田舎にとは……どういったご用で?」

小麦色に焼けた肌に伝う汗を手ぬぐいで拭きながら不思議そうに尋ねる男に対し、言葉を探すように黙り込んだ旅人は暫くすると口を開いた。

「……人探し、でしょうか」

「人探しでぇ?そりゃまた……」

想像とは違った答えに目を丸くした男は手ぬぐいを腿でばちんと弾き、皺を伸ばしてから首にかける。

「なんにもない田舎とはいえ、だだっ広いですからねえ。当てはあるんで?」

「ほんの少しだけ。会えたなら吉、会えずとも半吉。それくらいの心持ちですから」

そう言って苦笑を零した旅人に男は快活な笑みを向け、下ろしていた荷を背負い直した。

「はは、随分な賭けをなすったもんだ」

「そうですね。けれど、掛け捨ての旅も良いものではないですか?」

「ちがいねえ!」

 

そうして話している内にいつの間にか峠を越え、左右に分かれた岐路にたどり着いた一行。

 

「そんじゃあ、あっしらはここで。そっちを道なりに下れば小さな村がごぜえますから、そこで探し人について尋ねてみるといい」

「ありがとうございます。道中、お世話になりました」

「いんや、気にしなさんな。旅は道連れ世は情けでさあ」

気を付けてと互いに声を掛け合い、棒手振りらは右へ。旅人は左へ。

それぞれの道に分かれて下り坂を歩いていったのだった――。

暫く単調な稜線を歩いていた旅人だが、やがて見晴らしの良い開けた場所へとたどり着き、足を止めた。

 

木々は分かたれ、澄んだ青空と山々に囲まれた盆地が一望できるこの場所。

眼下には先ほどの棒手振りらが言っていた村だろうか、ぽつぽつと茅葺の屋根が並んでおりそこで暮らしている人々の暮らしも垣間見える。

(……さて、ここでは収穫があると良いのですが)

旅人は指先で笠を押し上げ一息吐くと、続く道へと足を進めたのだった。

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